画像生成AIを使うとき、必ず設定する「ステップ数」と「サンプラー」。
この2つの関係は、以下のように考えると一番シンプルです。
- ステップ数とは?
絵を完成させるまでに手を動かす「作業回数」。 - サンプラーとは?
どういう計算式を使って絵を仕上げていくかという「描き方の手順(計算ルール)」。絵筆みたいなものです。
この2つは必ずセットです。
なぜなら「どの描き方の手順(サンプラー)を選ぶか」によって、完成までに必要な「作業回数(ステップ数)」が決まるからです。
サンプラー進化の歴史(1,000回から1回へ)
サンプラーの歴史は、エンジニアたちが「いかに少ない作業回数で、綺麗な絵を完成させるか」を競い合ってきた歴史です。
① 2020年:元祖『DDPM』:作業回数「1,000回」
画像生成AI(拡散モデル)の始祖となったアルゴリズムです。
1枚の絵を完成させるために、なんと1,000回もの作業が必要でした。
1枚に何分も待たされるため、「綺麗だけど、遅すぎて実用性ゼロ」と言われていました。
② 2021年:スキップ技術『DDIM』:作業回数「50〜100回」
「毎回1回ずつ律儀に作業せず、途中の計算を飛ばし飛ばし進めればいいのでは?」という発想で作られたのが DDIM です。
作業回数を一気に10分の1(50〜100回)に短縮し、実用化が一気に現実味を帯びました。
③ 2022年:古典数学の応用『Euler / Euler a』: 作業回数「30〜40回」
Stable Diffusionが登場した年、天才プログラマーのキャサリン・クラウソン氏らが開発した手法です。
18世紀の数学者オイラーの計算式を応用することで、作業回数を30〜40回まで減らすことに成功しました。
ここで生まれた Euler a は、作業の途中に「あえて微小なランダムノイズ(手元のブレ)を混ぜ直す」という特徴を持っていました。
このブレが、アニメイラスト特有の「柔らかい質感や手描き感」を生み出すのに最適だったため、当時の有名AI「NovelAI」が採用し、アニメ系AIの絶対的な標準となりました。
④ 2023年:先読みの秀才『DPM++ 2M Karras』: 作業回数「20〜25回」
「直前の作業結果を記憶しておき、先のカーブを予測しながら進めばもっと作業を減らせるはずだ」という2次マルチステップ法(DPM-Solver)が登場します。
これに、NVIDIAの研究者テロ・カラス氏が開発した「人間が綺麗に見えるノイズの減らし方(Karrasスケジュール)」を合体させたのが DPM++ 2M Karras です。
たった20〜25回の作業で最高画質に到達し、写実的な表現や硬い主線を描くための業界標準になりました。
⑤ 2023年末〜2024年:超高速蒸留『LCM / Turbo / Lightning』:作業回数「1〜8回」
サンプラーの計算工夫だけでは限界に達したため、AIモデル自体を圧縮改造する「蒸留」という技術が登場しました。
これにより、わずか1〜8回の作業という、一瞬で絵を出す超高速化が実現しました。
⑥ 2024年後半〜現在:新方式『Flow Matching(Fluxなど)』
従来の「砂嵐を削っていく方式」を根本から見直し、物理学を応用して「ノイズから完成形まで最短の計算で結ぶ」という新しい構造を持つモデルが登場しました。
つまり、サンプラー自体を選ばなくてよくなりました。
人体の破綻や文字の崩れを減らせる新世代の技術です。
1. 昔のモデル:道が曲がりくねっていたから「特殊な道具」が必要だった
SDXLやIllustriousなどの従来のモデルは、ノイズから絵を掘り出すルートが「曲がりくねった山道」のようになっていました。
- 「先読みしてカーブを曲がる道具(DPM++)」
- 「あえてブレながら曲がる道具(Euler a)」
というように、特殊な道具(サンプラー)を人間が使い分けないと、道を踏み外して絵が崩れてしまっていたのです。だから20種類も選択肢がありました。
2. 最新のモデル:道を「最初から真っ直ぐ」にした
最新のモデル(Flow Matching / Fluxなど)は、AIの作り方そのものを改良して、ノイズから絵までのルートを「まっすぐな一本道」に舗装しました。
道がまっすぐなら、先読みも、手元のブレもいりません。
ただ一番単純なやり方(一番プレーンな基本の Euler)で真っ直ぐ進むだけで、誰でも100点満点の絵にたどり着けるようになったのです。
「最新の手順」が一番いいとは限らない
「作業回数が少ない最新のやり方(1〜8回で出る技術やFlux)があるなら、それを使えば一番いいのでは?」と思えますが、イラスト制作においてはそう単純ではありません。
あえて少し前のやり方(Euler a や DPM++)が選ばれ続けるのには、3つの明確な理由があります。
① 一瞬で描く超高速モデル(1〜8回)は、細かい描き込みが消える
作業回数を極限まで削っているため、瞳の中の細かな光の反射、服のレースの編み込み、髪の繊細な毛先などが省略され、のっぺりした安っぽい絵になりやすいです。
また、有志が配布している追加データ(キャラや衣装のLoRA)を適用すると、絵が崩れやすいという実用上の弱点があります。
② 『DPM++』は、真面目すぎて「手が3本」になりやすい
2023年にできたDPM++は、無駄なく正確に計算する「超真面目」な手順です。
しかし、横長サイズなどで余白が広すぎると、描き始めの段階で余白に「不自然な影(腕の予兆)」がうっかり生じることがあります。
DPM++は計算が正確すぎるがゆえに、その影を「描くべき被写体だ」と判断し、「余計な3本目の腕」まで爪の先まで完璧に描き上げてしまいます。
③ 2022年の『Euler a』は、テキトーだから「失敗を消してくれる(自浄作用)」
Euler aは、作業の途中で「あえて少し手をブレさせる(ランダムノイズを足す)」という特徴を持っています。
そのため、描き始めに不自然な影ができても、次の作業で手がブレた拍子に、その影を塗りつぶして消してくれることがあります。
数学的にはDPM++の方が進化していますが、イラストを描く上では「ブレがあるおかげで手足の崩れをごまかしてくれるEuler a」の方が結果が良くなるという逆転現象が起きるのです。
④ 新世代モデル(Fluxなど)は重すぎて、アニメの呪文に弱い
最新のFlow Matchingモデルは脳みそのサイズが巨大すぎて、一般的な環境では動作が重く、時間がかかります。
また、日本のオタク文化である「Danbooruタグ(記号化されたアニメの呪文)」の理解力は、従来のイラスト特化型モデルの方が圧倒的に強いという現実があります。
結論:何を選べばいいのか?
最新かどうかではなく、「どういう絵を描きたいか」で選びます。
- フィギュアのように、線がクッキリした絵を最速で出したい場合
👉 DPM++ 2M Karras(作業回数:22〜26回)
無駄のない手順なので、パキッとした硬い質感やプラスチックのようなツヤを最短で描くのに最適です。 - 手描きイラストのように、柔らかい絵を出したい場合
👉 Euler a(作業回数:30〜38回)
作業回数は少し多くなりますが、手元のブレが良い方向に働いて、柔らかい質感になり、変な手足が生える事故も防ぎやすくなります。


